タトゥーを見せて日本のリングに上がる、井岡一翔選手(31)にとってそれが昨年大晦日のWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチであり、信念のもと行われた。

井岡選手がタトゥーを入れたのは四階級制覇を目指し引退から復帰したとき。タトゥーを入れれば日本のリングに上がれないのは知っている。「海外を拠点にするからいい」、という考えだった。国内での試合はタトゥーをファンデーションなどで隠していたが、なぜ今回「処分」覚悟で見せたのか。

 

記者から「井岡の入れ墨が消されていない!」

 

問題の試合は前WBO世界フライ級王者で三階級制覇の田中恒成選手(25)との対戦。2人の激しい攻防は近年のベストバトルとの評価もあり、見るものを熱狂させた。しかし、記者席からこんな声が聞こえてきた。「井岡の入れ墨が消されていない!」。

日本ボクシングコミッション(JBC)ルールに「入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者は試合に出場することができない」と定められている。タトゥーがあればファンデーションやテーピングで隠さなければならない。皮膚を削ったり移植して無くす選手もいる。そして試合後、JBCは井岡選手の「処分」の検討を発表した。

 

まず、井岡選手はどんな目的でタトゥーを入れたのか。それは井岡選手のYouTubeチェンネル「井岡一翔 Diet Academy」で語られている。井岡選手は3階級制覇後の2017年12月31日、JCBに引退届を出し受理されたことを発表した。目標としたのが二階級制覇の叔父井岡弘樹さん(51)を超えることであり、三階級制覇を果たした今となってはモチベーションが維持できない、というのが大きな理由だった。引退して「次の人生」を探したが見つからず、2018年7月20日に現役復帰を発表する。

 

「タトゥーが日本でダメと言われたら海外でやろう」

 

2020年8月1日の「【井岡一翔ぶっちゃけトーク】世界チャンピオンにボクシングの闇・タトゥーについて質問してみた」では、こんなことが語られている。

「タトゥーは本気で(ボクシングを)やるというきっかけというか、ここから(一階級上げてボクシングを)やるというのは半端ないと思ったし、これをしたら逃げられないという決意表明だった」

とした。さらに、

「日本で(試合を)やる気がなくて海外を拠点にしようと。万が一日本で(タトゥーが)ダメと言われたら海外でやろうという頭なんで」

と説明。最初は環境を180度変えようと海外に行き、階級を上げて海外で四階級制覇をするという目標を立てた。ところがタイトルマッチで敗れ帰国する。そこに待ち構えていたのはタトゥーの問題である。「リングに上がるときは消すように」と指示されそれに従った。ところが、日本のジムに所属する外国人選手は、試合でタトゥーを消さなくていいのだ。そこにも矛盾があった。

 

タトゥーを入れて海外に行った理由は、日本ではボクシングが「マイナー」なスポーツであり、それをメジャーにしたかったから、という理由もある。「マイナー」だからスポンサーが付きにくく、日本チャンピオンになっても東洋太平洋チャンピオンになっても、バイトと併用しなければ食っていけない。日本で世界チャンピオンになるというのは、プロという名刺がもらえるに過ぎない、と思っていた。

日本でボクシングを「メジャー」にするためには海外で戦う自分を見せること。野球のメジャーリーグ、サッカーのヨーロッパリーグなどで日本人が活躍すれば評価されるような展開をボクシングにも持ってこようと考えた。海外では野球もサッカーもボクシングも選手は普通にタトゥーを入れている。

 

「田中に四階級制覇させたら、俺のやったことが帳消しになる」

 

 

タトゥーに関しては世界とのギャップがありすぎる、と井岡選手は語った。

「そういうのを(日本で)徐々に崩していけたらいい。タトゥーはどうでもいいことじゃないですか。見ている人は試合(タトゥーではなくパフォーマンス)です」

「徐々に打ち砕いていきたい。こいつ(井岡選手)に(タトゥーを隠せと)言っても通用しない、面倒くさいなと思わすぐらい、突き抜けたらいいな」

 

それでは今回タトゥーを見せたのはなぜか。それは井岡選手がタトゥーを入れた時と同じ思いがそこにある。それが「決意」と「挑戦」。昨年の11月27日に配信した「【井岡一翔が語る】なぜ戦い続けるのか? 日本人初4階級制覇のボクシング人生」でこう語っている。

自分は日本人初の四階級制覇チャンピオンであり四階級制覇したのは日本では自分しかいない。田中選手は三階級制覇チャンピオンである。自分以外のチャンピオンと闘って田中選手が四階級制覇するのはいいのだが、

「自分からすると(自分が負けての田中選手の四階級制覇は)やらしてはいけないことだ。俺のやったことが帳消しになっちゃうので」

自分が負けることによってこれまでの自分のボクシング人生が田中選手によって塗り替えられ根こそぎ奪われる、という恐怖だ。そのため復帰後の全てのボクシングへの思いが詰まったタトゥーを見せて戦った、ということになる。

 

井岡選手にJCBがどのような処分を課すかはまだ分からない。その内容は問わず、井岡選手は再び「戦場」を海外に置く可能性が高い。

(リンク)

「【井岡一翔ぶっちゃけトーク】世界チャンピオンにボクシングの闇・タトゥーについて質問してみた」(井岡一翔 Diet Academyチャンネル)

https://www.youtube.com/watch?v=OPDw27WE8gU