とても不思議な記事だった。英タイムズが2021年1月21日に電子版で報じたもので、日本政府はコロナ禍での東京オリンピック・パラリンピック開催の中止を判断し2032年の開催に動いている、というもの。

何が不思議かと言うと、日本政府にオリンピックの中止や延期を決める権限は一切ない。IOC(国際オリンピック委員会)が全権を握っていて、本来の記事の書き方としてはIOCを主役にしなければならないからだ。

 

250億ドル費やした日本の財政的惨事となるでしょう

 

英タイムズ社の記事の内容はこんな具合だ。まず記事の写真説明は、

「オリンピックの中止は、少なくとも準備に250億ドルを費やした日本にとって財政的惨事となるでしょう」

となっている。続いて記事は、日本政府はコロナウイルスのために東京オリンピックを中止しなければならないと内密に結論付けた。2032年に東京オリンピック開催確保に焦点が当てられている、というもの。この記事のネタ元は「日本政府の与党幹部」。開催は絶望的だと意見が一致していて、日本の面子を保つため24年のパリ、28年にロサンゼルスの次に空白になっている32年にねじ込みたい。当面の悩みは「中止決定」を日本の誰が最初に言うかだ。「個人的に東京五輪は無いと思う」

と記事は締めている。

 

この記事が不思議なのは「IOCの意向」が一切出ていないこと。実際のところ「IOCの意向」が全てであり、日本にはオリンピックを中止したり延期したりする権限が一切ない。さらに、「中止決定」を言うのはIOCであり、日本はそれに従う形になる。また、中止に与党幹部の「個人的意見」などは関係がない。タイムズが取材したという日本の与党幹部なる人物が実在するのか、オリンピック中止に言及したのかも疑問が残る。仮にこの記事が正しいとすれば、「日本はIOCの意向に従わずオリンピックを中止させる」ということになり、莫大な賠償金が発生する。

今年に入り海外ではオリンピック開催を危ぶむ報道が増えている。15日は米ニューヨーク・タイムズが電子版で「開催の不確実性が増している」としたが、あくまでIOCの話だ。もしくはカナダのIOC関係者ディック・パウンド氏の「開催は確信できない」(英BBC放送電子版)と、直接IOC側に話を聞いている。

 

「日本から切り出した話題」と思わせたいらしい

 

NNJニュースが「東京都オリンピック・パラリンピック準備局」広報に22日に話を聞いたところ、

「あの報道のようなことは聞いたことがありません。そのため当準備室も何か行動を起こしているわけではありませんし、当惑しています」

とした。さらに今回の報道で「日本政府は」とあるため、

「国の方で対応するということでした」

と明かした。

内閣官房は22日「東京大会に係る本日の報道について」とのプレスリリースを発表。

「東京大会については、昨年7月のIOC総会において、本年7月23日のオリンピック大会の開会式を皮切りに、競技スケジュールとその会場が決定されており、現在、本年夏からの大会の成功に向けて、大会関係者が 一丸となって準備に取り組んでいるところです」

今回の騒動にネットには、

「これは印象操作だろ『日本から切り出した話題』だと思わせたいらしい」

「中止する予定だけど非公式で信憑性のない情報という扱いにして、出来るだけ引っ張る作戦か」

「IOCがとっとと「五輪、やめるぞ!」って言えば解決するんだけどな。国連がうんたらとか言い出したらしいけど」

などと言った書き込みが出ている。

(リンク)

東京都オリンピック・パラリンピック準備局

https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/