絵本作家エリック・カールさん(2021年5月23日死去、91歳)の「はらぺこあおむし」の日本の出版社、偕成社の今村正樹社長が、毎日新聞に掲載された「はらぺこあおむし」の風刺漫画について「作者、編集者ともに不勉強でセンスがない」と痛烈に批判した。「風刺」の意味を理解していない、というのだ。
ところがネット上では、今回の件で恥をかいたのは今村社長であり、「エリックさんに関して不勉強、風刺を語る資格がない」といった意見も出ている。というのもカールさんは「はらぺこあおむし」の二次創作に寛容で、いくつものパロディ作品が生まれているからだ。
IOCバッハ会長などが「放映権」を食いまくる
「はらぺこあおむし」は世界中で愛されている絵本で、小さな青虫がいろんなものをたくさん食べ、蛹になり、美しい蝶になって行くという元気と希望がもらえる作品。毎日新聞が6月5日に朝刊の風刺漫画のコーナー「経世済民術」に掲載したのは、「エリック・カールさんを偲んで はらぺこIOC 食べまくる物語」というタイトル。青虫になったバッハ会長などのIOCメンバーの似顔絵を描いて、東京五輪開催をめぐる問題を皮肉った。青虫たちは「放映権」というリンゴをむさぼっている。これに異を唱えたのが偕成社の今村社長で、同社の公式HPにこんな文章を綴った。この童話の楽しさは、どこまでも健康的な食欲と、それに共感する子どもたち自身の「食べたい、成長したい」という欲求にある。そのため金銭的な利権への欲望を風刺するには全く不適当であり、原作すら読んでいないはずだ、とし、
「今回の風刺漫画は作者と紙面に載せた編集者双方の不勉強、センスの無さを露呈したものでした。繰り返しますが、出版に携わるものとして、表現の自由、風刺画の重要さを信じるがゆえにこうしたお粗末さを本当に残念に思います」
と痛烈に批判した。
この考えに賛同する声は多いのだが、一部で首を捻る人が出た。今村社長こそ不勉強でカールさんや風刺を語る資格がない、というのだ。
「はらぺこゾンビ」「クトゥルフ」などエグいパロも
というのも、カールさんは「はらぺこあおむし」を使っての風刺やパロディー作品を認めていたのは有名で、例えば「はらぺこゾンビ」「はらぺこクトゥルフ」などの、子供の夢とは程遠いダークでエグい内容の作品が数多く存在する、というのだ。
ネットでは、
「この出版社の社長がアホすぎるのは、エリック・カールが、はらぺこあおむしについて、どんな二次創作も自由にやっていいと宣言していた作家だと言うことを忘れてることだよ」
「同じ設定と仕組みのはらぺこクローンが世界中で出てるからな」
「はらぺこあおむしの原作者は二次創作やパロディに寛容で自由にやっていいと宣言してたので、はらぺこゾンビやはらぺこクトゥルフなどのエグい内容のパロディが世に出ている」
「裏方がしゃしゃり出てきて作家に替わってお気持ち表明する必要ゼロなわけで、
問題あるなら事務的に法に訴えろよ」
といったことが掲示板に書き込まれている。ただし、カールさんは70冊を超える作品について、知的財産権を米出版大手ペンギン・ランダムハウスに売却することを2019年11月に発表している。著作権保有者の意向如何では話はまた変わって来る。
(リンク)
偕成社の今村正樹社長「風刺漫画のあり方について」