朝日新聞社は3月28日、退社した元記者の講談社からの出版に厳重抗議をしたことを明かした。本の内容は在職中の取材がベース。そのため著作権は朝日新聞に帰属する。「相応の対応」をするよう申し入れた。
今回の件について、元朝日新聞記者で経済ジャーナリストの井上久男さん(59)はTwitterで、「なんとケツの穴の小さき事よ。貧すれば鈍するのかな」と朝日新聞を評した。
記事がボツでも著作権は本社に?
朝日新聞が問題にしたのは昨年8月に退社した元ドバイ支局長、伊藤喜之さん(41)の著書「悪党=潜入300日 ドバイ・ガーシー一味=」。公式ホームページ上に3月28日、「取材情報などの無断利用に抗議しました」とし、
「本社が著作権を有する原稿や退職者による在職中の取材情報の無断利用、誤った認識や臆測に基づく不適切な記述などの問題が認められたことから、著者である弊社元ドバイ支局長 伊藤喜之氏と発行元の講談社に対し、厳重に抗議するとともに、相応の対応を求める書面を送付しました」
「盗用」「情報漏洩」といった「犯行」なのか、と一瞬思われたが違っていた。職務中に知り得た情報は退社しても正当な理由なく記事や本にしてはならない。「守秘義務の対象」であり、執筆記事は掲載、未掲載に関わらず著作権は朝日新聞に帰属する、というもの。そして、この文章からはこんなことが分かる。伊藤さんは朝日新聞に掲載、もしくは出版しようと原稿を提出した。しかし何らかの理由で断られた(ボツになった)。それで講談社から出版することになった、ということだ。正社員の記者が本の出版を「手土産」にフリーになる、というのはよくある話し。もちろん最初に相談するのは所属会社だ。
「誠実な対応」は私が求めたもの
朝日新聞のこの抗議、出版界にちょっとしたショックを与えている。というのも、当然ながらフリーになれば活動のベースになるのは社員時代の取材、そこから得た知識。朝日新聞は、
「在職中に取材した情報は、本社との雇用契約における守秘義務の対象です」
と書いている。しかし、退社後にフリーになる場合の取材情報の利用は暗黙の了解になっていたはず。でなければフリーなどにはなれない。そもそも、現役の正社員記者であっても、他社の媒体に寄稿、本の出版、テレビ出演など普通に行われている。なぜ伊藤さんはダメなのか。伊藤さんは抗議を受け、29日Twitterに、
「朝日新聞社から抗議を受けました。取材情報の利用には正当な理由があるため、講談社と粛々対応いたします。『誠実な対応』って朝日に私が求めてたものだよ。悲しいね」
と投稿した。
フリーになっても情報は使っていた
朝日記者OBで、「中国の見えない侵略!サイバースパイが日本を滅ぼす 経済安全保障で企業・国民を守れ」「自動車会社が消える日」などの著書がある経済ジャーナリストの井上さんは30日、
「朝日記者時代に知り得た情報をフリーになっても記事で使っていたけどね。伊藤氏の記事で重要機密が漏れたわけでもあるまいに、なんとケツの穴の小さき事よ。貧すれば鈍するのかな」
と朝日新聞を揶揄した。井上さんの時代(1992年入社、2004年退社)にはこうした問題は起きなかった、ということのようだ。井上さんはこんなことも明かしている。箱島信一社長時代(1999~2005年)から他社で執筆する際に上司の許可が必要になった。さらに最近、外部で講演や執筆する場合、「社業」で行ってもいいが、原稿料や講演料の大半は会社が取っている、と聞いている。
「企業としては当然なのかもしれないがメディアとしてはいかがなものか」
記者は社員であっても独立性が求められる時代になっている。
「所属する社の編集方針に合わない場合でも世に問う意味があればそれを出す必要があると思う。特に知る権利に関する内容であればなおさら。今回がそれに該当するのか否かは別だが」
と井上さんは結んだ。
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(リンク)
朝日新聞HP「取材情報などの無断利用に抗議しました」
https://www.asahi.com/corporate/info/14871159
伊藤喜之さんTwitter「悲しいね」
https://twitter.com/yoshiyukiito227/
井上久男さんTwitter「ケツの穴の小さき事よ」